interview インタビュー

ファッションエッセイスト フランソワーズ・モレシャン 2010年5月20日
ファッションエッセイスト
フランソワーズ・モレシャン


ファッション・エッセイスト、ライフスタイル・プロデューサー
特定非営利活動法人、世界の医療団名誉委員会委員長
金沢21世紀美術館国際アドバイザー、仏政府対外貿易顧問
「第16回日本の美術」審査員

パリ生まれ。ソルボンヌ大学・東洋語学校日本語学科を経て来日。1964年パリに戻りレブロン、クリスチャン・ディオール宣伝課長に。1974年シャネル美容部長として再来日。著書『失敗しないおしゃれ』が100万部を越える大ベストセラーとなる。その後、ファッション・アドバイザーとして活躍する一方でフランス政府対外貿易顧問、金沢21世紀美術館国際アドバイザーを務め、2009年にはフランス国家功労勲章コマンドゥール受賞。現在、東京、金沢、そしてパリを往復する生活。

「Exhibition of MINERVA 2009」の開催記念トークショーにもご参加いただいたフランソワーズ・モレシャン氏。
あらゆる文化に精通し、多彩な顔を持つ氏に輝き続ける秘訣をうかがいました。

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―ファッションと文化・アートとの関係についてお考えをお聞かせください。

ファッションを上手に着こなそうとするならば、文化・アート全般に意識を持っていなければなりません。日本人はファッションと文化を別にする節があり残念です。ファッションデザイナーのクリスチャン・ラクロワは美術館の館長を目指し勉強していました。そのため彼は文化的な知識が豊富で、それをバックボーンにファッションの世界へ入りました。良い仕事をするためには視野を広げる必要があるのです。
ファッションに携わる人にとって、帽子の被り方ひとつをとってみてもバランスがとても大切です。しかし、これを学ぶために特別な教科書は必要ありません。たくさんの絵や建築を見て、目から飛び込んでくる美のバランスを学ぶのです。私も幼い頃からルネッサンス時代や中世時代の建築、絵画をたくさん見て、芸術に含まれた哲学や文化、バランスについて学んできました。哲学、宗教、文化とバランスは親密な関係にあるため、偏って多くを学ぼうとしない人がスタイルを作り出すのは容易ではないでしょうね。

―実際、美術作品とバランスはどのように関連しているのでしょうか。

17世紀のオランダで確立された風景画では空や山、川、木、家屋などが絶妙に配置されています。当時カトリックからプロテスタントへと勢力が移行するなか、モラルを表すために描かれたキリストや聖母マリアを、プロテスタントは自然で表すようになりました。画面三分の一に大地、そして三分の二に空を描き、神が住む天空を大きく取ることで、スピリチュアルな世界を表現したのです。これは信仰や歴史に裏打ちされたバランスがあるからとても美しい。
同時期に生まれた静物画のなかにも、1本ないし3本のチューリップがモチーフに描かれている作品があります。これには「あまり関わらないで」という警告が含まれています。当時はチューリップの品種改良が盛んで、オランダではその美しさのため球根を巡って高額の取引が行なわれ、やがて値が暴落し社会に混乱を招きました。俗に言うチューリップ・バブル。つまり、少数のチューリップが描かれているのは「贅沢をするな」というモラルを表現しているわけです。
こうした歴史的背景を知っていた上で作品を鑑賞するととても興味深いですね。けれども例え知らなくともバランスが整い、深みのある作品は十分に楽しむことができます。私も幼少の頃は絵画を純粋に美しいとだけ思っていましたから。

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―美術に深い造詣をお持ちなのはパリの芸術大学の教授でいらっしゃったお母様の影響ですか?

それもあると思います。母に比べ絵はあまり上達しませんでしたが。平均的に見てもフランス人は日本人より文化に関心を持っています。私も幼少の頃からバレエを習っていましたが、例えばベートーベンの交響曲第6番「田園」に乗せて踊るのであれば、ヨーロッパの牧歌的な夏の収穫風景を感じて自分自身をプロデュースし、衣装を制作するというように、美意識や感性を育むことが当たり前の環境でした。そして指導者にも大変恵まれていました。ですから自主的に感じて行動ができない人はとても残念に思います。

―ジュエリーのデザインやプロデュースをされていますが、美術鑑賞の方法をお聞かせください。

それは本当に個人差がありますね。色彩に興味を示す人や色よりも線に敏感な人、またバランス重視の人など、見方は千差万別です。美術(アート)は理屈で見て欲しくない。これは基本ですね。理屈っぽい人はアーティストになることはできません。技術はアートに必要ですが理屈は全く必要ないのです。理屈は頭、アートは心と関係しています。センシビリティ(感受性)が必要です。
アートについて話すときりがありませんが、ショパンにしてもリストにしても、ベートーベンにしても、センシビリティを使っていますね。感じることが大切。音楽も、聞くことで「感じる」ことが刺激されるのです。
私自身も絵画を読み解く知識は無論大人になってから得たのですが、パリの友人たちは皆そういった文化的知識が豊富で、一緒に美術館へ足を運び感動を共有したり、それを話したりすることがとても楽しい。新しい作品を見るときも、自分の中にこれまでの見識が蓄積されていますから、バランスの良さを見出すことができます。どんなに新しい作品にも、避けられない基本があるのです。
有名なオークション会社、クリスティーズへ入社する人たちは、偽物を掴まされないためにルーヴル美術館で「物を見る目」を養います。そして「勘」を得るのです。現代人は、何でも「勉強できる」と思っている節がありますが、これは違います。ものを見るには、10年間は本物と偽物を絶えず見る努力が必要でしょう。肌、目、神経、つまり勘で物を見るのです。日々の経験で本物を見る目が育つのです。
そこで大切なのは「私はまだ、何も知らない」という控え目な気持ち。謙虚な心で徳を積むことです。人間、皆そうでなければなりません。私たち人間はつまらないものです。そのつまらないものの中で競っているため、進歩があるのです。
近年、鈍感な心を育ててしまっている日本の教育も残念でなりません。縛られたルールやタブーのなかで、人の才能は活かすことも育てることもできないのです。芸術もそう。ルールから飛び出さなければつまらない作品しか生まれません。先日、世界文藝社で開催されている展覧会で作品を拝見したのですが、出展者の皆さんが社会の目を気にすることなくそれを実行している様に感じ、大変嬉しく思いました。

―最後にこれから作品を制作される人へ向けて、メッセージをいただけますでしょうか。

キュビスムのような作品で知られるピカソですが、ご承知のとおり若い時には勉強して素晴らしいデッサン力を身につけていました。色彩や構図も大切ですが、基本的なデッサンを学んで、どんどんバランスを養ってください。基本を踏まえた上で、理屈にとらわれることなく、自由な発想力で生み出された「粋」な作品を期待しています。

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